Life in Berkeley アメリカ大学院留学記

2021年からUCBのPh.D.課程にて研究留学中 <進学準備、研究生活、日常生活を紹介します>

なぜアメリカの大学院へ進学したのか?

前回の記事では、就職と進学を迷った末にどのようなプロセスで進学を選択をしたのか、ということについて扱いました。

気になる方はこちらのリンクから前回の記事に飛べます↓

ayalog.hatenablog.com

しかし、アメリカの大学院に進学すると決まってから、その報告をする度によく聞かれた質問の1つに"なぜ日本じゃなくてアメリカの大学院なの?"という質問があります。

海外に行かなくても日本でも十分に研究できる環境があるのではないか?、日本で生まれ育ったのだし、家族や友人がいる日本を離れてまでどうしてアメリカに行くのか?ということなど、気になることが多いかもしれません。

そこで、今回は進学をすると選んだ上で、なぜアメリカの大学院に行きたいと思ったのかという理由を大きく5つ紹介したいと思います。また、理由を説明する中で日本とアメリカの大学院博士課程の違いも紹介するので、もしこの記事を読んでいる人の中に、日本で進学するか、海外に進学するかで悩んでいる人がいれば、このような考え方もあるんだ、というように参考になるのではないかと思います。

 f:id:c201233w:20210224135509p:plain

はじめに ~アメリカ大学院進学を意識し始めたタイミング~

まず、5つの理由について話す前に、私がアメリカの大学院に進学することを決意したタイミングについて簡単に紹介します。海外大学院に進学したいと考えている人や実際にしている人の中には、大学1・2年生の頃やそれ以上前から海外大学院への進学を志して、それを目標に必要な準備を行なってきたような人も多いと思います。少なくとも、私がネットで調べた時にはそのような情報が多かったです。

しかし、私の場合は本格的にアメリカの大学院への進学を意識し始めたのは、学部3~4年生にかけて参加した交換留学の最中で、留学帰国後の4年生の7月以降に奨学金応募やGRE受験、エッセイ執筆とやらなければならないことがたくさんあって時間が全然足りないと焦ったのを覚えています。そのため、もっと早いタイミングで決意した/している人とは、これから紹介するアメリカの大学院に進学しようと思った理由やモチベーションが随分異なるかもしれません。 

※私がいうのもなんですが、進学準備は早いに越したことはありません...

 

理由#1 心から惹かれる研究テーマ/研究室に出会ったから

まず、理由の一つ目は研究テーマと研究室の魅力度です。学部3年時の交換留学前に日本で(主に東大で)興味のある研究室を探して、研究室訪問をして、というのを行っていたのですが、その当時興味のあった食品科学に関連する研究室を何個か訪問したもののあまりピンとくる研究テーマを行なっている研究室に出会えませんでした。また、私の主観でしかありませんが、東大で訪問した先の研究室の教授は内部生か外部生かということで対応に差をつける(私は外部生なのであまり良い顔をされない)ということがあったりして....。

もちろん、東大以外にももっと目を向けて色々と調べてみれば日本国内でも"ここで研究したい!"と思える研究室に出会えたかもしれないのですが、あまり時間もなかったこともあって、、とりあえずは私の話に興味を持ってくれて教授の人柄がよく話が合うと感じた先生が1人いたので、その方の研究室が所属するプログラムに入るための過去問を購入して、それを持って渡米しました。

前回の"後悔しない進路の選び方"の記事でも詳しく書いたように、交換留学中にまず就職と進学で悩み、その後進学を選択したものの、せっかくアメリカに留学しているのに日本から持ってきた過去問で勉強するのか...と感じ、そこまで東大の研究室に入りたいというモチベーションが上がりませんでした。また、たまたま留学中に履修していた授業で、人の腸内細菌叢のバランスによって健康状態が左右されるという論文や、断食(fasting)がマウスの長寿に繋がるとする研究成果を発表している論文に触れたことにより、食品そのものの安全性や影響ということよりも、食品を含め物質が生体内に取り込まれたあとの代謝のメカニズムであったり、 何もしなくても歳を取るにつれて自然発生的に生体に起きる老化現象をどうしたら抑制できるのかといった代謝生物学・老化研究などの分野に興味を持ち始め、それらの研究テーマを扱っている研究室を探してみようと思うようになりました。

そして、せっかく今現在アメリカにいるのだから、アメリカの研究室も調べてみようと考え、日本とアメリカの大学院プログラムを探している中で、老化研究はアメリカが先進しており、論文数の国際シェア順位を比較しても日本は11位なのに対し、アメリカは1位とその差が明らかであることを知り、せっかく研究をするなら、アメリカの大学院で行いたいというように考えるようになりました。(老化研究に限らず、資金面での違いもあり、アメリカは研究の進んでいる分野が多いです)

研究室や教授とのコンタクトの取り方についてはまた別の記事で詳しく説明しようと思いますが、私は交換留学中に運よく研究室訪問&1ヶ月ほどラボで実験やミーティングなどに参加させてもらう機会をいただくことができました。そして、その一カ月間を通して、研究室の人と話をしたり、実験をさせてもらったり、ラボミーティングに参加したりして、研究への理解を深めることができたことにより、実際にその研究室に入った場合の研究生活を具体的に体感することができ、ここでもっと研究してみたい、ここに入りたいと心から惹かれ、ここを第一志望にアメリカ大学院受験を行いました。

 

f:id:c201233w:20210227220757p:plain
f:id:c201233w:20210227215726p:plain

理由#2 日本基準ではなく世界基準で自分を試したいと思ったから

2つ目の理由は、アメリカのトップレベルの大学では世界基準で研究ができると考えたからです。大学院というのはもちろん研究をすることがメインで、良い教授(優秀なリーダー)の元、研究ができるのであればどこで研究をしても構わないとは思います。しかし、それでもどの国の大学院に進学するかによって研究室のメンバー構成や雰囲気というのは異なるように思います。

私の場合は日本とアメリカの大学院でしか比較をしていませんが、わかりやすい例として、東大は日本の中ではトップでも世界レベルで見たらハーバード、スタンフォードケンブリッジを始めとしてさらに上がたくさん存在しているということ、そしてそのような大学へは世界各国から優秀な学生が集まってくるということが挙げられます。また、日本の大学院では基本的に公用語は日本語で、研究室のメンバー構成も(多少の留学生がいるにせよ)マジョリティーは日本人なのに対し、アメリカの大学院は英語が母国語ではないが堪能な学生が世界各国から集まって皆英語で議論をしたりしています。

研究をするだけであれば日本でもよかったかもしれませんが、このような違いを考慮した上で、私は世界各国から集まってくる優秀な学生たちと専門的な研究の内容について議論をしたり意見を述べ合ったりということを行わなくてはならない環境に自分自身を置くことで、自分がどこまで世界レベルについていけるのかということを試してみたい、自分を鍛えたい、挑戦してみたいと考え、アメリカのトップレベル大学での研究に魅力を感じました。

f:id:c201233w:20210227221412p:plain
f:id:c201233w:20210227221220p:plain

理由#3 卒業後の進路の選択肢が広がると感じたから

3つ目の理由は、アメリカと日本、それぞれの博士課程卒業後の進路の選択肢の違いです。よく聞く話だと思いますが、日本で博士課程をとってから就職をしようと思っても高学歴すぎて謙遜されたり、学だけあって経験がないので使い物にならないというような扱いを受ける(=日本では博士号の価値が低い)ということがあります。このような話をよく聞く、というだけで私自身が実際に体験したわけではないため、同じ博士号でも分野によっては重宝されたり、人によっても状況は異なってくるとは思いますが、それでも日本での博士課程進学者の少なさをみると、この傾向はあながち間違いではないかなと思います。

それに対して、アメリカでは研究者としてアカデミアでの道を目指すならばもちろん、将来的には産業界で働くのだとしても、Doctorを持っているということがステータスの一つであり、多くの学生が学部卒業後に大学院への進学を検討します。

具体的な数値としては、アメリカの大学院進学率は日本の4.5倍です。この理由としては、
アメリカの大学進学率(74%)が日本(51%)の約1.5倍であるということもあげられますが(出典:大学進学率の国際比較 文部科学省)、日本では学部卒の新卒一括採用が盛んで、就職時に専門性が求められていない(むしろ専門分野に偏っておらず、入社後に鍛えて伸びるポテンシャルのある学生を採用する)傾向があるのに対し、アメリカでは企業側が専門性のある学生を求めているという違いが挙げられます。さらに、アメリカの大学はリベラルアーツ制度をとっているところも多く、学部というのは基本的に教養を身につける場であり、専門性は大学院に入ってから身に付けるという考え方の違いも影響していると思います。

そのようなことから、私自身も日本にいたときは"博士課程に進学する=研究者になると決意しなくてはいけない"というような進路が狭まる印象を抱いていました。しかし、学部3年時の交換留学先の大学で出会った現地の学生が、"将来何になるかは決めていないけれど、大学院に進んで専門的に学んでみたいことがある"と話すのを聞いたり、日本やそれ以外の国からアメリカのPh.D.に進学している学生がその後の進路としてアメリカでのポスドクや就職、起業等様々な可能性を検討している姿をみて、アメリカで博士課程に進学するということは卒業後の選択肢を広げることに繋がると確信し、その点に魅力を感じた、というのが理由の3つ目でした。

f:id:c201233w:20210227221923p:plain
f:id:c201233w:20210227222626p:plain

理由#4 学費の自費負担がなく、給料(Stipend)がもらえるから

4つ目の理由は現実的な話ですが、日本とアメリカの大学院博士課程の大きな違いの一つに、自分で学費を払って在籍するのか(日本)、在籍しながら給料をもらうのか(アメリカ)という違いがあります。よく知らない人のために詳しく説明しておくと、日本で博士課程まで全て卒業しようと思うと学部卒業の時点から修士2年+博士3年=5年もの間、学費を払い続けなくてはなりません。もちろん国公立であれば学費はあまり高くないでしょうし、通称"学振"と呼ばれている研究奨励金を取得することができれば自己負担費を減らすことができます。
しかしながら、アメリカでは学振とは比較にならないくらい手当てが厚く、博士課程の学生は基本的に年間$30000(300万円)程度の授業料が免除になる上に、$2000~3000 (20万円〜30万円)程度が毎月給料として支払われますアメリカは地域によって物価や地価の違いが大きいので、この給与は大学のある都市の物価や地価によっても変わってきますし、また大学のレベルや学科によっても異なりますが、どこに行っても普通に暮らす分には困らないくらいにはもらえます。
さらには、アメリカの大学では学内のジムの使用料(なぜかジムを使う使わないに限らず全員)や学内の保険に加入する義務があるのですが、これらの費用までも大学院生は自己負担をする必要がありません。特に、学内の保険制度はかなりしっかりとした制度で、アメリカで風邪や病気にかかっても基本的にはこの保険制度により全てカバーしてもらうことができるのですが、私の学校(UC Berkeley)では年間約$6000もするため、これらを自己負担しなくて良いというのは大変ありがたいです。

ここでより現実的な話をすると、私の場合、学部を卒業したのが23歳で、そこから最短で5年でアメリカの博士課程を卒業したとしても、卒業時には28歳です。そのため、日本の大学院で博士まで進むとするならば、もちろん学振など応募できるものには応募すると思いますが、それでも様々な点で両親に頼りながらお金を払って学生というポジションで居続けることを意味すると思います。その一方で、アメリカの大学院では、学生というよりも給料をもらいながら研究をさせてもらう研究員というようなポジションだと感じています。
私自身は30歳手前まで学生で居続けることにそれほど抵抗はありません。しかし、それでも学部を共に卒業した同期たちが社会に出て働いている中、いつまでも両親の保護のもと教育費としてお金を払い続けてもらいながら研究・学生を続けるというよりは、自分で研究をしながら稼いで貯金もし、自立した生活を送りながら、さらに学位取得も目指す、というアメリカの大学院での博士課程の方が魅力的に感じました。

もし、金銭面の問題で大学院進学は止めるように言われている人がいたとしても、アメリカの大学院に進学する場合はそのような心配はしなくて良いと思うので、是非前向きに検討して見てほしいです。
長くなりましたが、このような金銭面での違いもアメリカの大学院が魅力的に映った理由の一つでした。

f:id:c201233w:20210228061227p:plain
f:id:c201233w:20210228061048p:plain

理由#5 常に挑戦し続けたいから

日本とアメリカの大学院という選択肢があったとき、正直アメリカの大学院に興味を持ち色々調べ始めてからは、全く迷うことなくアメリカの大学院を選択していました。アメリカの大学院で行われている研究内容自体に興味があったというのも大きいですが、それに加えてアメリカの大学院に行く方が日本の大学院に行くよりもはるかに難しそう、体験談等を調べてみると、頑張っても全落ちしてしまうこともあるようだし、GRE/TOEFLのスコアもあげなくてはいけないし、、それ以前に奨学金の倍率もものすごく高い様だし、、、と結果がどうなるかわからないけれど、そんなに難しいならぜひ挑戦してみたい!と思っていました。

私は基本的に何もしていない時間があまり好きではなくて、ただ暇に時間をつぶす・平凡な毎日を送るというよりは、予定が入りすぎて忙しすぎるくらいの方が好き・いつも何か新しいことに挑戦していたいという性格(感覚?)をしています。だからといって、何でもかんでもむやみやたらに挑戦して失敗するのも嫌(=怖い)なので、毎回色々なことに挑戦している最中はストレスが大きく、かなり神経質になりながらできる限りの準備をして臨んでおり、なんでこんなこと挑戦してしまったんだろう、、と投げやりな気持ちになることもあります。

それでもやはり不思議なことに、達成した瞬間(今回の場合は合格した時)にはすごく達成感を得られるのに、挑戦していたことが達成してしまいやることがなくなってしまって1週間もすると、また何か挑戦できる面白いことはないかな、と思い始め常に更なる山(挑戦)を探す、ということの繰り返しでこれまで生きてきており、これからも生きていく様な気がします。若干workaholicな様な気もしますが...まぁ楽しんでやっているのでいいでしょう笑
そのため、この最後の理由についてはアメリカの大学院に行きたい理由というよりも、私自身が一生何かに挑戦し続けていたいという思いを常に持っていて、今回その挑戦の一つとして、アメリカの大学院への進学を目指したという経緯になります。 

f:id:c201233w:20210228063044p:plain
f:id:c201233w:20210228062306p:plain

 

何か意思決定・選択をする時には人それぞれに理由は異なると思うので、今回の私自身の考え方や体験談を読んだところで、自分には当てはまらない、共感できないなどと思われる人もいるかと思います。

もちろん捉え方は人それぞれですが、私がこの記事で自分の考え方や経験について記そうと思った一つの理由のは、自分自身がアメリカの大学院へ行くと決める際にあまりこの様な情報(個人が進学を決めるまでの経緯)がネット上にはなく、どの様な人がどの様な志で、何を目指して海外に行こうと思うんだろう、という様に思っていた/知りたかったからです。

この様な体験談などは講演会等で直接話を聞くことで聞くことはできると思いますが、この記事を読んで、日本とアメリカどちらの大学院にするか迷っている人や進路選択に不安がある人などの参考になったり背中を押すことができればいいなと思ってます。